取引先要求に応えるサプライチェーンセキュリティ

経済産業省が進める「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(略称:SCS評価制度/SCS=Supply-Chain Security)」では、★3が「最低限」、★4が「重要取引の必須水準」となりつつあります。制度は2026年度末頃の開始が見込まれ、サプライチェーン全体でのセキュリティ強化が取引の前提になりつつあります。
中堅・中小企業では、メール添付や個人クラウドなど”見えない共有”が残り、証跡不足で監査に耐えられない現状があります。
本コラムでは、SCS評価制度とは何かという基本から、★3/★4で求められる要件、効率的な統制・証跡の整備の進め方までを解説します。

※DirectCloudでSCS評価制度に備える具体的な方法は、コラム「今知りたい経産省サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度★3★4に備える方法」を参照してください。

本記事のサマリー

  • SCS評価制度は経済産業省主導で整備が進む制度で、2026年度末頃に運用が始まる見込みとなっている
  • ★3は専門家確認付き自己評価で最低限の水準、★4は44項目の第三者評価で客観的な証跡が問われる
  • 未対応では受注や契約更新が難しくなり、第三者に説明できる仕組みの一体的な整備が重要となる

SCS評価制度とは

SCS評価制度の正式名称と「SCS」の意味

SCS評価制度の正式名称は「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」です。SCSは「Supply-Chain Security(サプライチェーン・セキュリティ)」の略で、経済産業省が制度設計を進めています。
取引先に対して「自社のセキュリティ対策がどの水準にあるか」を、第三者にも分かる共通基準で示すための評価制度です。

SCS評価制度の目的と対象

目的は、サプライチェーン全体のセキュリティ対策状況を共通基準で可視化し、取引先間の説明や確認を容易にすることです。業界ごとにバラバラだった基準を統一し、すべての企業が「最低限守るべきライン」を共通認識として持てるようにします。
対象は大企業に限りません。発注側が取引条件として一定の評価取得を求める動きが広がっており、中堅・中小企業や子会社も対応が必要になりつつあります。

SCS評価制度の開始時期

SCS評価制度は2026年度末頃の開始が見込まれています。具体的には、2026年8月〜2027年9月に実証実験(「サイバーセキュリティお助け隊サービス」(新類型)実証実験)、2027年3月に制度の運用開始が予定されています。

セキュリティの弱い企業を狙ったランサムウェア被害が増えており、サプライチェーン全体での早期対応が求められています。

SCS評価制度の評価段階(★1〜★5)

セキュリティ基準は段階で評価されます。既存の自己宣言制度「SECURITY ACTION」(IPA運営)の★1〜★2を土台に、本制度では新たに★3・★4・★5が設けられます。
★3が最低限実装すべき水準、★4が標準的に目指す水準、★5が到達点として目指す最高位です。
なお★3・★4が先行して整備され、★5の対策基準・評価スキームの詳細は2026年度以降に具体化される予定です。

※上図はSECURITY ACTION(★1〜★2)と新設の★3・★4を中心に示した概念図です。本制度の最高位には★5があります。

段階 位置づけ 評価方法
★1〜★2 既存のセキュリティ基準(SECURITY ACTION/IPA運営) 自己宣言
★3 最低限実装すべき水準(一般的なサイバー攻撃に対処) 専門家確認付き自己評価
★4 標準的に目指す水準(重要取引で求められる水準) 第三者評価(★4:44項目)
★5 到達点として目指す最高位(未知の攻撃を含む高度な対策) 第三者評価(詳細は2026年度以降に具体化)
★1〜★2
位置づけ
既存のセキュリティ基準(SECURITY ACTION/IPA運営)
評価方法
自己宣言
★3
位置づけ
最低限実装すべき水準(一般的なサイバー攻撃に対処)
評価方法
専門家確認付き自己評価
★4
位置づけ
標準的に目指す水準(重要取引で求められる水準)
評価方法
第三者評価(★4:44項目)
★5
位置づけ
到達点として目指す最高位(未知の攻撃を含む高度な対策)
評価方法
第三者評価(詳細は2026年度以降に具体化)

★3は運用の説明可能性、★4は第三者が認める客観的証跡の有無が評価の核心となります。★5は到達点に位置づけられ、未知の攻撃も含めた高度な対策が想定されています(対策基準・評価スキームの詳細は今後具体化)。
なお上位の段階は下位の要求を包含しますが、★3を取得していなくても★4を取得できる(順番に取得する必要はない)とされています。

SCS評価制度が生まれた背景

この制度が生まれた背景には、サプライチェーン全体を取り巻くセキュリティリスクの深刻化があります。
大企業が強固なセキュリティ対策を講じる一方で、対策が手薄な中小企業や子会社が侵入口として最初に狙われるケースが増加しています。
また、1社のシステムダウンがサプライチェーン全体の製造停止や物流混乱を招く事態も現実のリスクとなっています。
たとえば、2025年10月に、IT・印刷関連サービスを展開するA社の基幹システムが、ランサムウェアの標的にされた事例があります。
この攻撃により、受注・出荷を担うシステムが停止し、A社自身の業務だけでなく、同社の物流・受発注基盤を利用していた複数の取引先やパートナー企業の業務にも影響が波及しました。
こうした状況を受け、業界ごとにバラバラだった基準を統一し、すべての企業が「最低限守るべきライン」を共通認識として持つ必要性が高まりました。
SCS評価制度は、その課題に応えるために整備された仕組みです。

SCS評価制度★3/★4の要求事項

SCS評価制度★3/★4の要求事項は、「ガバナンス(ルール)」「証跡(ログ)」「技術的統制(システム)」の3つがそろってはじめて対応できます。
★3/★4が求める統制レベルのギャップを、7分野の比較表として可視化したものが以下です。

ガバナンスの整備
項目 SCS評価制度★3の要求水準 SCS評価制度★4の要求水準
ガバナンスの整備 ・経営方針に基づくセキュリティ規程整備 ・経営層への定期報告体制
・社外共有/ID管理ルールの明文化 ・方針/役割/責任/評価サイクルの運用
・担当部署/責任者の明確化 ・第三者評価に耐えるガバナンス確立
SCS評価制度★3の要求水準
ガバナンスの整備
・経営方針に基づくセキュリティ規程整備
・社外共有/ID管理ルールの明文化
・担当部署/責任者の明確化
SCS評価制度★4の要求水準
ガバナンスの整備
・経営層への定期報告体制
・方針/役割/責任/評価サイクルの運用
・第三者評価に耐えるガバナンス確立
取引先管理
項目 SCS評価制度★3の要求水準 SCS評価制度★4の要求水準
取引先管理 ・重要な委託先/取引先の特定 ・取引先リスク評価の仕組み整備
・情報取扱い/セキュリティ要件の契約明記 ・★3/★4要件を反映した契約・覚書
・インシデント連絡手順の合意 ・定期的な実施状況確認と改善要請
SCS評価制度★3の要求水準
取引先管理
・重要な委託先/取引先の特定
・情報取扱い/セキュリティ要件の契約明記
・インシデント連絡手順の合意
SCS評価制度★4の要求水準
取引先管理
・取引先リスク評価の仕組み整備
・★3/★4要件を反映した契約・覚書
・定期的な実施状況確認と改善要請
リスクの特定
項目 SCS評価制度★3の要求水準 SCS評価制度★4の要求水準
リスクの特定 ・IT資産/重要データ/クラウドの一覧化 ・定期的なリスクアセスメントの実施
・社外共有方法の統一 ・資産/脅威/脆弱性の体系的洗い出し
・追跡可能な共有管理の実施 ・サプライチェーンリスクの説明可能化
SCS評価制度★3の要求水準
リスクの特定
・IT資産/重要データ・クラウドの一覧化
・社外共有方法の統一
・追跡可能な共有管理の実施
SCS評価制度★4の要求水準
リスクの特定
・定期的なリスクアセスメントの実施
・資産/脅威/脆弱性の体系的洗い出し
・サプライチェーンリスクの説明可能化
攻撃等の防御
項目 SCS評価制度★3の要求水準 SCS評価制度★4の要求水準
攻撃等の防御 ・権限付与/削除ルールの明確化 ・データ分類と保護レベルの定義
・アクセス制御と暗号化の基本実装 ・最小権限/多要素認証の徹底
・有効期限付き/認証付き共有リンクの利用 ・IRM/DLPによる持ち出し抑止
・社外共有手段の統一 ・共有統制を含む包括的防御の運用
SCS評価制度★3の要求水準
攻撃等の防御
・権限付与/削除ルールの明確化
・アクセス制御と暗号化の基本実装
・有効期限付き/認証付き共有リンクの利用
・社外共有手段の統一
SCS評価制度★4の要求水準
攻撃等の防御
・データ分類と保護レベルの定義
・最小権限/多要素認証の徹底
・IRM/DLPによる持ち出し抑止
・共有統制を含む包括的防御の運用
攻撃等の検知
項目 SCS評価制度★3の要求水準 SCS評価制度★4の要求水準
攻撃等の検知 ・重要システム/クラウドの主要ログ取得 ・多面的な監視(ログ/振る舞い/クラウド監査ログ等)の実施
・一定期間のログ保管 ・長期ログ保管体制の整備
・アラート/通知による早期検知 ・SIEM等と連携した予兆監視/分析
SCS評価制度★3の要求水準
攻撃等の検知
・重要システム/クラウドの主要ログ取得
・一定期間のログ保管
・アラート/通知による早期検知
SCS評価制度★4の要求水準
攻撃等の検知
・多面的な監視(ログ/振る舞い/クラウド監査ログ等)の実施
・長期ログ保管体制の整備
・SIEM等と連携した予兆監視・分析
インシデントへの対応
項目 SCS評価制度★3の要求水準 SCS評価制度★4の要求水準
インシデントへの対応 ・インシデント定義/初動手順の文書化 ・計画的な机上訓練/技術演習の実施
・社内外連絡先/エスカレーションの明確化 ・対応結果の振り返りと手順改善
・必要ログ/証跡確保の体制整備 ・取引先との役割分担/連絡手順の明文化
SCS評価制度★3の要求水準
インシデントへの対応
・インシデント定義/初動手順の文書化
・社内外連絡先/エスカレーションの明確化
・必要ログ/証跡確保の体制整備
SCS評価制度★4の要求水準
インシデントへの対応
・計画的な机上訓練/技術演習の実施
・対応結果の振り返りと手順改善
・取引先との役割分担/連絡手順の明文化
インシデントからの復旧
項目 SCS評価制度★3の要求水準 SCS評価制度★4の要求水準
インシデントからの復旧 ・重要システムのバックアップ手順整備 ・BCPに基づく復旧計画の策定
・復元テストの定期実施 ・RTO/RPOを踏まえた多重化/遠隔地バックアップ
・事業継続に必要なデータ復旧の確認 ・インシデント後レビューによる復旧手順の継続的改善
SCS評価制度★3の要求水準
インシデントからの復旧
・重要システムのバックアップ手順整備
・復元テストの定期実施
・事業継続に必要なデータ復旧の確認
SCS評価制度★4の要求水準
インシデントからの復旧
・BCPに基づく復旧計画の策定
・RTO/RPOを踏まえた多重化・遠隔地バックアップ
・インシデント後レビューによる復旧手順の継続的改善

多くの企業の実務上の障害は、属人的な社外共有(メール・個人クラウド・USBメモリ)、権限・アカウント管理の曖昧さ、ログ・証跡の不足による説明困難の3点です。これらは統制の欠落ではなく、統制を支える仕組みが分断されていることが原因です。
「何かを禁止する」のではなく「定期レビュー」「監査可能性」「脆弱性管理プロセス」など、「第三者に説明できる仕組みを持つ」こと、そしてファイルとログを分散させず一元化することが、対応を効率化します。

★3評価で求められる要件のポイント

経産省の制度構築方針(案)では、★3は「専門家確認付き自己評価」が前提です。第三者実地審査までは想定されておらず、以下の4点が主な評価ポイントとなります。

ログの場合、取得範囲が不明確な状態や、担当者が活用できない状態では評価に耐えません。

★4評価で求められる要件のポイント

★4では、第三者が見て妥当だと判断できる運用と証跡が存在するかどうかが評価の核心となります。
そのため、誰が・いつ・何を実施したか追跡できる客観的な記録が、合否を左右します。社内で通用している説明やルールが、そのまま評価に耐えるとは限りません。

また、★4ではインシデント対応について「起きた後の対応」ではなく「起きた場合にどう判断し、誰が動くか」が定義されているかが問われます。
セキュリティ方針の策定・承認、役割と責任の明文化、定期的なレビューと監督に加え、体制や手順が年1回以上点検・更新されているかが第三者評価で確認されます。

SCS評価制度に対応しない場合のリスク

SCS評価制度への対応が遅れた場合のリスクも、見過ごすことができません。具体的には、以下のようなリスクが存在します。

  • 発注側企業が「★3以上の取得」を取引条件とする動きが広がれば、未対応のままでは新規受注や契約更新が困難になる恐れがある
  • 自社が踏み台にされて取引先に損害を与えた場合、ガイドラインを遵守していなければ、善管注意義務違反として多額の損害賠償を請求される
  • 「セキュリティ対策を怠っている企業」という評価はブランド価値の低下を招き、顧客離れや採用活動・資金調達にも悪影響を及ぼす

まとめ

SCS評価制度(★3/★4)は、もはや大企業だけの基準ではありません。
中堅・中小企業でも「★3は最低限」「重要取引では★4が求められる」 状況が現実に起きています。
SCS評価制度に未対応のままでは、新規受注・契約更新の難航や損害賠償、ブランド毀損に直結します。
効率的な統制・証跡の整備を進めるためには、「禁止」を増やすのではなく、「第三者に説明できる仕組み」の整備し、ガバナンス・ログ・アクセス制御と暗号化を分断せず一体で運用することが重要です。
ガバナンス(ルール)+証跡(ログ)+技術的統制(アクセス・暗号化) を1つのサービスで揃えるための選択肢として、クラウドストレージの活用もぜひご検討ください。

よくある質問(Q&A)

  • メール添付や個人クラウドは禁止した方が良いのでしょうか?
  • はい。

    SCS評価制度の考え方では、“追跡できない共有”はリスクとして扱われます。
    メール添付・USBメモリ・個人クラウドは証跡が残らず、★3の「アクセス・共有履歴を提示できる状態」を満たせません。標準の共有基盤への一本化が必須となります。
  • 証跡の準備で最低限そろえるべきものは何ですか?
  • 以下の3つが揃えば、★3の中心要求をクリアできます。

    ・「誰が」「いつ」「どのファイル」にアクセスしたのかが分かるログ
    ・共有リンクの発行・ダウンロード・削除履歴
    ・ログ保管期間(例:1〜3年)の社内ルール
  • 中堅・中小企業でも、短期間で★3をクリアできますか?
  • はい。

    中堅、中小企業であっても、「社外共有の統一+ログの自動化」を先に着手することで、★3の主要項目の多くを短期間でカバーできます。
    特に法人向けクラウドストレージのような統合型の基盤を使うことで、設定の抜け漏れが発生しないことから、メール添付・個人クラウドの排除を含め “一気に整える” ことができるようになります。
  • 既存のファイルサーバーやNASと共存できますか?
  • 共存は可能です。

    ただし、SCS評価制度の評価対象は「社外共有・権限管理・証跡」であるため、これらすべてを既存ファイルサーバーだけで満たすのは困難です。
    現実的な運用を考えた場合、社外共有をクラウドに統一して証跡を一本化し、社内の大容量データはNASに残すなどの、“役割分担”が最も多いパターンです。
  • ログレビュー(★4要求)はどのように運用すればいいですか?
  • 最も現実的な方法は次の3ステップです。

    1. 週次/月次でアクセスログを自動抽出
    2. 不審アクセス(一度に大量のファイルダウンロード・業務時間外(深夜等)のアクセス)を
    ピックアップ
    3. 記録を保管し、年次の棚卸しで説明できる状態にしておく
  • 優先順位付けをした場合、先に何から着手するべきですか?
  • 次の順番が最も効果的です。

    1. 社外共有の統一(メール添付・個人クラウド禁止)
    2. アクセス権限の再設計(部署・役職ごと)
    3. ログの取得・保管ルールを確立
    4. 脆弱性管理・ログレビューの運用開始(★4対応)


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