eDiscoveryの全貌とクラウド活用

現代の企業経営において、eDiscovery(電子情報開示)は法務・コンプライアンス対応の要となっています。電子的に保存された情報(ESI:Electronically Stored Information)を効果的に管理し、法的要求に迅速に応えるための方法を学ぶことは、企業の信頼性を守るうえで不可欠です。
本コラムでは、eDiscoveryの基本から、国内市場の現状、具体的なツールの機能、さらにはクラウド環境でeDiscoveryを運用する際に求められる要素など幅広く解説いたします。企業が直面する法的リスクを軽減し、持続可能な成長を実現するためのヒントを探っていきましょう。

1. eDiscoveryとは

企業が法的リスクを管理するうえで、eDiscovery(電子情報開示)は重要な役割を果たします。eDiscoveryとは、訴訟対応や規制遵守、内部調査などの場面で、膨大なデジタル情報を適切に抽出し、整理し、必要な形式で提示するための仕組みです。
対象となる情報は多岐にわたり、電子メールやチャット履歴、クラウドストレージに保存された文書、業務システムのデータベース、アクセス記録、さらにはスマートフォンに蓄積されたデータまで含まれます。
近年、クラウドサービスの利用が急速に広がる中、eDiscoveryの実施環境はオンプレミスからクラウドへと移行しています。この変化は、企業にとって柔軟性や迅速性を高める一方で、情報管理の高度化を求める新たな課題を生み出しています。こうした背景から、eDiscoveryの重要性は今後さらに増すと考えられます。

eDiscoveryの目的

eDiscoveryは、企業の法務やコンプライアンス対応において重要な役割を担っており、法的な要求に応じて、電子証拠を裁判所や規制当局(公正取引委員会、証券取引等監視委員会、検察庁等)に提出することで、法的リスクを軽減し、ビジネスの持続的な成長を実現することを目的としています。
さらに、eDiscoveryの導入は単なるリスク回避にとどまらず、情報開示の透明性を高め、ステークホルダーからの信頼を強化する効果もあります。
こうした背景から、eDiscoveryは法務対応の枠を超え、企業の持続可能な成長戦略において重要な役割を果たすと考えられます。

eDiscoveryの基本的なプロセス

eDiscoveryのプロセスは、訴訟や規制対応、内部調査において電子証拠を適切に処理するための標準的なステップで構成されています。
EDRM(EDRM.NET)が提唱しているモデルによると、これらのステップは、以下の8段階に大別できます。

  • ① 識別(Identification)

    事案に関連するデータを特定します。これは、システム、データの種類、保管場所、関係者を明らかにする重要なステップです。

  • ② 保全(Preservation)

    法的ホールドを設定し、データの削除や変更を防ぎます。これにより、証拠が保持され、後の段階での利用が可能となります。

  • ③ 収集(Collection)

    権限のもとでデータを標準化可能な形式で収集します。ここでは、データの暗号化やハッシュ値の取得も重要です。

  • ④ 処理(Processing)

    収集したデータの重複排除や正規化、メタデータの整備を行います。

  • ⑤ レビュー(Review)

    データの特権判定やタグ付けを行い、効率的なレビューを実現します。

  • ⑥ 分析(Analysis)

    データの関連性を評価します。キーワード検索や機械学習を活用して、より効率的な分析が可能です。

  • ⑥ 提出(Production)

    裁判所や規制当局に必要な形式でデータを提出します。ここでは、Bates番号やレダクションといった法的要件に基づく処理が求められます。

  • ⑥ 提示(Presentation)

    審理や報告用にデータを適切な形式で提示します。

これらのプロセスによって、法的な要求に応じた適切な手順を踏むことで、証拠の信頼性や法的防御能力を維持することができます。
※参考文献: EDRM Model – EDRM

2. 国内eDiscovery市場の現状

eDiscoveryの市場は、近年急速に成長しています。
この成長予測は、法的要件の厳格化やデジタルデータの増加による影響が大きいと考えられています。
ここでは、eDiscoveryのグローバル市場の現状を説明します。

市場成長の背景

eDiscoveryのグローバル市場規模は、2023年の約15.1億米ドル(約2.3兆円※)から2028年には約22.7億米ドル(約3.4兆円※)に達すると予測されており、年平均成長率(CAGR)は8.46%と見込まれています。
※為替レートは2025年11月時点の概算(1USD=150円)で換算。

市場規模の推移

年次 市場規模 ソフトウェア サービス CAGR
(2023-2028全体)
備考
(範囲内分析)
2023 15.09 5.28 9.81 8.46% ベース年。ソフトウェアシェア35%。
2024 16.38 5.89 10.49 推定成長(mashupモデル)。
2025 17.78 6.56 11.22 中間予測。
2026 19.30 7.32 12.00 安定成長期。
2027 20.94 8.14 12.80 ソフトウェア優位化。
2028 22.65 9.06 13.59 総成長50%超。サービスシェア60%。

※単位: 億USD
※出典:EDRM / ComplexDiscovery “ The Next Five Years in eDiscovery: Market Size Forecast for 2023-2028 ” by EDRM is licensed under CC BY 4.0

この成長を支える主な要因は以下の通りです。

  • 電子的に保存された情報(ESI)の爆発的増加

    企業・政府が扱うデジタルデータ量が急拡大し、訴訟・調査時の発見対象データが年々増大しています。

  • 技術支援レビュー(TAR)やAIの導入加速

    ソフトウェア分野が年平均11.4%で最も高い成長率を示しており、自動化・効率化ツールへの投資が継続的に進んでいます。

  • クラウド環境へのシフト

    コスト削減とスケーラビリティを求めて、従来のオンプレミスからSaaSを中心としたクラウド型ソリューションへの移行が世界的に進展しています。

これらの要因により、企業・法務部門・政府機関はeDiscoveryプロセスを戦略的に強化し、導入・更新投資を積極化しています。

eDiscoveryのサービス提供事業者

eDiscoveryに関連したソリューションを提供している事業者は多く存在します。それぞれの事業者は異なる強みを持ち、企業のニーズに応じたソリューションを提供しています。

  • 大手法律事務所

    法務分野における豊富な経験を活かし、自社開発のeDiscoveryソリューションを提供しています。これにより、顧客は専門家の助けを得て効率的な調査と法的対応が可能となります。

  • ITベンダー

    高度な技術力を活用し、専門的なeDiscoveryツールを開発しています。これらのツールは多様な業界に適しており、企業の特定のニーズに応じた柔軟な対応が可能です。

  • SaaS事業者

    SaaS型サービスを提供する企業は、監査ログの完全性や権限管理の強化に焦点を当てています。これにより、クラウド環境でのセキュリティと効率性を両立するeDiscoveryサービスが実現されています。


現在、クラウド型のeDiscoveryサービスの採用が急速に進んでいます。オンプレミス型と比較して、クラウド型ソリューションは以下の点で価値を提供しています。

  • コスト効率

    初期費用が低く、長期的なコスト削減が可能であるため、多くの企業がクラウド型を選択しています。

  • 迅速な展開

    クラウドサービスは即時利用が可能であり、導入までの時間を大幅に短縮できます。

  • セキュリティ強化

    最新の技術を活用し、クラウド環境でのデータ保護が一層強化されています。これにより、法的要件を満たしつつ安全な運用が可能となります。


また、人工知能(AI)や機械学習の活用によるレビュー自動化が進展しており、膨大なデータから関連情報を迅速に抽出する技術が普及しつつあります。

eDiscoveryの推進における課題

eDiscoveryを推進していくにあたり、企業が抱える課題も多く存在します。

  • 高額なランニングコスト

    訴訟対応後もデータホスティング費用が長期的に発生するケースがあり、予算計画を立てることが難しくなります。

  • 専門知識の不足

    eDiscoveryは法務、IT、翻訳、セキュリティなど複合的なスキルを必要とし、対応には外部専門サービスの活用が不可欠です。

  • 平時の準備不足

    訴訟発生後に慌てて対応するのでは間に合わず、情報ガバナンス体制の構築が急務となっています。


上記の課題を考慮した上で、自社にあったツールを選定し、運用することが必要になります。

3. eDiscoveryツールの機能

eDiscoveryを効率的に進めるためには、専用のツールが不可欠です。これらのツールは、証拠の発見・保全・分析・提出を効率化し、法的防御可能性を担保するように設計されています。
具体的には、高度検索機能、リーガルホールド管理、監査ログ機能が挙げられます。これらの機能は、eDiscoveryプロセスをスムーズに進めるために必要不可欠です。
この章では、eDiscoveryツールの主要機能とその重要性について説明します。

高度な検索機能

eDiscoveryツールにおける高度検索機能によって、対象データの迅速な識別が可能になります。これには以下の要素が含まれます。

  • キーワード検索

    指定したキーワードに基づき、関連する情報を瞬時に抽出します。

  • メタデータ検索

    ファイルの作成日時や作成者など、メタデータを用いて細かな条件設定が可能です。

  • 近傍重複検出

    類似した文書を自動的に検出し、重複を排除することで効率を向上させます。

これにより、必要な情報に素早くアクセスでき、時間の節約につながります。

リーガルホールド管理

リーガルホールド管理は、訴訟やコンプライアンス調査に備えて、重要な電子データを改ざんや削除から守るための仕組みです。これにより、証拠の完全性を確保し、企業の法的防御力を高めることができます。
具体的には以下の機能を具備しています。

  • 対象特定

    訴訟・調査に関係するユーザー、メールアカウント、フォルダ、データ範囲を指定。

  • 保全指示(ホールド命令)

    管理者がシステム上で保持命令を発行し、対象データを保護。

  • 削除・変更の停止

    指定されたデータはユーザーや自動削除ポリシーからも変更・削除不可になる(読み取り専用化)。

  • 通知と管理

    対象ユーザーや関係者にホールドの通知が送られ、解除までの状態を監視。

  • 解除

    訴訟や調査が終了した段階で、管理者が解除を実行し、通常の削除ポリシーに戻す。

この仕組みは、単なるデータ保護にとどまらず、企業のコンプライアンス体制を強化し、リスク管理の信頼性を高める重要な要素となります。

操作履歴の記録とデータソース連携

監査ログ機能は、eDiscoveryプロセスの透明性を保つために不可欠です。以下の内容が含まれます。

  • 操作履歴の記録

    誰がいつ何をしたかを記録し、後の監査や法的調査に対応します。

  • データソースとの連携

    メール、チャット、クラウドストレージなど、様々なデータソースから法令遵守データを統合的に収集します。

これにより、データの整合性を保ちつつ、効率的な情報収集と証跡管理が可能になります。

権限管理とセキュリティ

eDiscoveryツールの権限管理機能は、機密データへのアクセスを厳格に制御するための重要な仕組みです。
主な機能は以下の通りです。

  • 最小権限の原則

    ユーザーには業務遂行に必要な最低限の権限のみを付与し、情報漏えいリスクを低減します。

  • 管理者の操作ログ

    管理者による設定変更や操作履歴を詳細に記録し、監査対応を可能にします。

  • 二要素認証

    ログイン時に追加認証を求めることで、なりすましや不正アクセスを防止します。

これらの機能により、企業は高いセキュリティレベルを維持しながら、eDiscoveryプロセスを安全に運用できます。

4. クラウド環境に対するeDiscoveryの適用

eDiscoveryの適用は、特にクラウド環境において重要性を増しています。この章では、クラウドサービスにおけるeDiscoveryの必要性及びその実施方法について詳しく解説いたします。

クラウド環境におけるeDiscoveryの重要性

近年、企業のデータ管理はクラウドへと移行しています。この変化は、法的調査やコンプライアンス対応を担うeDiscoveryのあり方にも大きな影響を与えています。
従来の手法では対応しきれない理由は次の通りです。

  • クラウド特有のデータ分散

    複数のクラウドサービスにまたがってデータが保存されるため、証拠抽出には従来以上の検索精度と統合管理が求められます。

  • 急速なデータ増加と多様化

    チャット、動画、共有ドキュメントなど、クラウド利用に伴いデータ形式が多様化しています。これに対応するためには、例えばAIを活用した自動分類や高速検索などが不可欠です。

  • 国際的な法規制への対応

    GDPRや個人情報保護法だけでなく、各国のデータ越境規制にも準拠する必要があります。クラウド環境では、データの所在や保持ポリシーを明確化する仕組みが重要です。

インプレース保持と改ざん防止

クラウド時代のeDiscoveryでは、証拠の信頼性を確保しつつ、業務を止めない仕組みが求められます。そのためには、データ管理の設計思想を見直す必要があります。

  • 業務継続を前提とした保持設計

    データを別の場所に移動せず、利用中の環境でそのまま保持することで、日常業務への影響を最小化します。このアプローチは、証拠保全と業務効率の両立を実現する鍵となります。

  • 改ざん防止のための多層的アプローチ

    データの真正性を担保するには、履歴管理や削除防止の仕組みを組み合わせることが重要です。特に、変更不可のストレージやバージョン追跡は、法的要求に対応するための有効な手段です。

5. まとめ

現代の企業経営において、eDiscoveryは、法務やコンプライアンスの中核を担うプロセスとしてその重要性を増しています。企業は、電子的に保存された情報を適切に管理し、法的要求に迅速に対応する必要があります。本コラムでは、eDiscoveryの基本、グローバル市場の現状、ツールの機能、クラウド環境への適用に関する詳細を解説しました。

国内市場では、グローバル展開している大企業でeDiscoveryの導入が進んでおり、企業は法的リスクを軽減し、持続可能な成長を目指すため、最適なツール選びが求められています。eDiscoveryの重要性は今後さらに増すと予想され、企業は最新技術と標準化されたプロセスを活用し、法的リスクを軽減しながら、効率的な情報管理体制を構築する必要があります。

eDiscoveryを提供するツールとして、Microsoft Purview が上げられ、Microsoft 365 E3/E5ライセンスに含まれます(一部従量制)。
ただし、eDiscovery専用ツールは高価です。現在の日本国内においては、米国と同等のeDiscoveryツールが必須という状況ではありませんので、検索・保全・操作履歴・権限管理など、情報セキュリティを考慮したISMS認証を取得しているツールを導入しておくことをおすすめします。
DirectCloudでは情報セキュリティを考慮し、ISO/IEC 27001, ISO/IEC 27017のISMS認証を取得したクラウドストレージを提供しています。

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