現在、さまざまな企業においてシステムをクラウド化する流れが進んでいます。官公庁においても、「クラウド・バイ・デフォルト」に基づいたシステムリプレースが進行中です。
しかし、業界によっては管轄省庁の監督指針や法規制などにより、データの保存サーバーやデータセンターの物理的な所在地を日本国内に指定されることもあります。クラウドサービスは、データセンターが海外にあるものが多く、クラウド化を進める上での障害となることも少なくありません。
本記事では、複数拠点で冗長性を高めたいものの、データセンターの所在地は日本国内にこだわりたい貴社におすすめの「分散型クラウド」について解説します。
- 目次
- 1. 分散型クラウドとは
- 2. 分散型クラウドが誕生した背景
- 3. 分散型クラウドのメリット
- 4. 分散型クラウドの課題
- 5. 分散型クラウドはDirectCloudの利用が便利
- 6. まとめ
分散型クラウドとは
「分散型クラウド」とは、パブリッククラウドで提供されるサービスをさまざまなロケーション(物理的な場所)で利用するための技術やアーキテクチャモデル、あるいはそのアーキテクチャで構成されたクラウド環境を提供するサービスです。
多くのクラウドサービスでは、特定の拠点(データセンター)にサーバーを設置する集中型クラウドとして提供されますが、分散型クラウドではサーバーの設置拠点を複数箇所に分散します。
各拠点は「サブステーション」と呼ばれ、クラウドコンピューティング、ストレージ、ネットワーキング機能を提供する小型データセンターです。サブステーションは、クラウドで疑似(※)アベイラビリティゾーンとして機能し、共有されます。
※複数のサブステーションにより構成される集合の単位
これにより、ユーザーは物理的に近い位置でサービスを利用できるため、快適にサービスを利用でき、ロケーションによらず一貫したサービスの利用が可能になります。
サブステーションの設置箇所によっては、データやIT資産のロケーション制限のためにパブリッククラウドが利用できなかったケースでも利用可能です。
システム管理者は分散型クラウドに登録されたサービスを一元管理することが可能です。
また、分散型クラウドでは、プロバイダ(サービス提供元)が分散したサービスの所有、運用、ガバナンス、更新、進化に関する責任を負うため、システム管理者によるシステム設計や運用管理の負荷軽減にも効果を期待できます。
ハイブリッドクラウドとの違い
「ハイブリッドクラウド」は、複数の利用者(企業)が利用するパブリッククラウドと、自社が占有するプライベートクラウドやオンプレミスサーバーを組み合わせて利用するクラウドのアーキテクチャまたはサービスです。
プライベートクラウドはセキュリティやカスタマイズ性に優れますがコストが高いという短所があり、パブリッククラウドはセキュリティやカスタマイズ性はプライベートクラウドに劣りますが、コストを低く抑えられます。
この両者を組み合わせることでセキュリティとコストを両立することが可能です。
ハイブリッドクラウドでは、利用するクラウドサーバーのロケーションの変更はできません。分散型クラウドでは、利用者の環境に合わせて近い位置にサブステーションが構築される点で異なります。
マルチクラウドとの違い
「マルチクラウド」は、複数のプロバイダのクラウドサーバーを組み合わせて利用するクラウドの利用形態です。
複数のシステムから構成される点や、短所を補い長所を活かすという目的はハイブリッドクラウドと同じですが、自社のクラウドシステム(プライベートクラウド)を持たない点が異なります。これにより、特定のプロバイダのシステム障害によって生じるリスクを分散できます。
具体的なサービス
分散型クラウドは比較的新しいサービスであり、国内向けに提供しているプレイヤーはまだ少ないのが現状です。その中で先行して提供されているサービス例を紹介します。
IBM Cloud Satellite
「IBM Cloud Satellite」は、クラウド、オンプレミス環境、およびエッジでのアプリケーションの迅速な構築を支援するための分散型クラウドです。
IBM Cloud Satelliteは、IBM Cloudのクラウドサービス上のアプリケーションやサービスをIBM Cloudのリージョン以外の場所でもリージョン内と同じように利用・管理可能にします。
IBM Cloud Satelliteにより、低レイテンシーが求められる業務や、多地域における開発・運用業務、多地域におけるクラウド環境の一貫性の確保などが可能となり、市場拡大やカスタマー・エクスペリエンスの向上に寄与します。
AWSのリージョン構成単位と「AWS Local Zones」
AWSでは、クラウドを提供する領域を定めた「リージョン」と、高可用性を提供するためのデータセンターの集合単位「アベイラビリティゾーン」があります。これらを適切に配置してクラウドシステムを構築することで、分散型クラウドに近い環境を構築することも可能です。
また、AWSでは2019年から「AWS Local Zones」という分散型クラウドを提供するサービスが始まっています。
このサービスでは、サブステーションにあたる小規模なデータセンターを「ローカルゾーン」と呼び、行政機関や学校、商業施設、大型の工場施設や、ITセンターの近くに配置し、低レイテンシーでAWSのクラウドサービスを利用可能にします。
まだ展開されている地域が米国の一部だけですが、ニーズが高まる中で利用可能地域の拡大が期待されます。
分散型クラウドが誕生した背景
分散型クラウドが誕生した背景には次のようなものがあります。
クラウドの浸透と限界
クラウドを利用したさまざまなサービスが登場し、数多くの企業において導入されるようになって久しいですが、まだまだ移行が進んでいないシステムも多いのが現実です。
特に規制された業界においては、セキュリティやコンプライアンスの要件や、パフォーマンス、レイテンシーなどの要件によって、クラウドへのシステムやデータの移行が難しい場合もあります。
IoT時代によるエッジコンピューティングの必要性
近年増加しているIoTデバイスでは、大量のデータがエッジ(デバイスに近い場所)で生成されています。
また、5Gの登場はIoTのさらなる浸透と拡大を加速させ、それに伴ってエッジにおけるデータ量も膨大なものになると予想されます。
Cisco社によると、5Gは、M2M(Machine to Machine)通信の指数関数的な増加をもたらし、2023年までにM2M接続数が147億(世界中の接続数の約半分)を占めるようになると試算しています。
ネット上に数兆ものノードが出現し、データを生成し始めるようになれば、データセンターへのトラフィックやリソース使用量の増加は避けられず、パフォーマンスの低下やコストの増大を引き起こします。
IoTやAIの分野では特に低レイテンシーの要求が高く、集合型クラウドでは対応が難しいため、必ずしもデータセンター上で管理する必要はなく、エッジでの処理が適切と考えられています。
しかし、エッジの数が膨大になると運用・管理が難しくなるため、管理者による一元管理が可能な仕組みが求められていました。
分散型クラウドのメリット
それでは、ここで分散型クラウドのメリットについて整理してみましょう。
ユーザーに近いロケーションでサービスを利用可能
クラウドサービス事業者がサブステーション(小規模データセンター)の数を増やすことで、クラウドサービスの機能を必要とするユーザーは近いロケーションでサービスを利用することができます。
これにより、データセンターへの過大なトラフィックを抑えると共に、低レイテンシーでの利用が可能になります。データの逐次処理や、AIやVR・ARなど膨大なデータのやりとりを必要とするシステム、Webサービスやゲームなどの開発・運用で特に効果的です。
一貫したクラウド環境の構築が可能
分散型クラウドでは、複数のパブリッククラウドやプライベートクラウドを一元管理できるため、利用場所によらずパフォーマンスやセキュリティのポリシーを遵守しやすくなります。
分散型クラウドの課題
分散型クラウドにはメリットが多いものの、課題がないわけではありません。現時点での分散型クラウドの普及に向けた課題について解説します。
帯域幅の拡大コストを誰がどのように負担するか
分散型クラウドでサブステーションが近隣の企業にも開放されることになった場合にはトラフィックの増加が見込まれるため、効果的な運用のためには帯域幅の拡大が必要です。その場合、そのコストを誰がどのように負担するかという点が問題となる可能性があります。
サブステーションを共有する場合の売上の近隣ユーザーの利用料金
複数企業でサブステーションを共有する場合、サブステーションの近隣ユーザーは利用料金を提供元のクラウドプロバイダに支払うか、あるいは最初にサブステーションの設置を依頼した企業に支払うかといった問題があります。
どのような利用料金体系になるかによって、導入のしやすさ変わってくるでしょう。
分散型クラウドはDirectCloudの利用が便利
DirectCloudは情報資産を管理するデータセンターが日本国内にあるクラウドストレージです。
東京リージョン3ヶ所のデータセンターにファイルが分散保存されており、それぞれのリージョンに障害があった場合でも、1ヶ所で稼動していればデータ消失のリスクを避けることができます。
また、拠点内サーバーをさらに冗長化することにより、高可用性を実現しています(SLAサーバー稼働率99.95%を保証)。
DirectCloudを活用することで、テレワーク環境など場所を問わず高い業務効率を維持することが可能です。
既存のファイルサーバーと同じく、管理者権限によりフォルダへのアクセス制限やファイル操作を制限することが可能ため、企業のセキュリティポリシーに準じた運用を実現できます。
まとめ
今後IoTや5Gの普及に伴い、分散型クラウドの普及・拡大が予想されています。
DirectCloudは情報共有・セキュリティに優れた機能を持つ法人向けクラウドストレージで、国内複数拠点での分散保存と拠点内サーバーの冗長化により高可用性を提供します。
社内ルールや法規制などで国外データセンターのクラウドが利用できない企業でも安心して導入でき、利用者数に関わらず一定の月額料金でお使いいただけます。